スマホを確認した彼女は「ちょっとごめん」と言って電話に出る。

もし、求め合いたいと思うなら……って、なんだか意味深な終わり方。

一週間お預けされた先が気になるドラマのようだ。

早く電話終わらないかな。

電話に出ている百合の表情はとても明るい。

くすくす小さく笑いながら口元に人差し指を当て、前髪を色っぽくかき上げると、「うん、わかった。もう、ばっかねー。はいはい、また連絡する」と言って電話を切った。

なんとなく相手は女性じゃないような気がした。

彼女の旦那さん?

それにしてもあんな女っぽいしゃべり方するなんて、よほどラブラブなんだろう。でも、百合から旦那さんの話なんてほとんど聞かないけれど。

「ごめん」

百合は顔をしかめて私に詫びると、さっきの電話がまんざらでもないような様子でビールを一口飲んだ。

誰?と尋ねようとしたら、百合が先に口を開いた。

「今の電話、学生の時付き合ってた元彼なの。最近ばったり遭遇して、それからいい関係なんだ」

元彼といい関係……って??

思わず、その言葉を必死に理解するために自分の小さな目を最大限に見開いて百合を正面から見つめた。

「まさか、百合って離婚してないよね?」

「してないわよ」

彼女はそう言っておかしそうに笑った。

「でも……」

「うん、そうだよね。変だよね、旦那がいるのに元彼といい関係だなんて」

「ってことは、やっぱり、あの......いわゆる不倫......ってやつだよね」

思い切って口にしたその言葉は妙に艶かしくリアルに私たちの間に響いた。

そして、そんな言葉を不用意に使ってしまった自分がとても浅はかな気がしてすぐに謝る。

「ふふ、謝ることなんかないよ。だって本当のことだもん。だけど、強いて言わせてもらうなら、私は不倫って言葉は好きじゃないの。婚外恋愛っていう表現を使わせてもらうわね」

正面に座る百合をあらためて見ると、匂い立つように美しく、まるで、恋愛に夢中になってた学生の頃みたいに特別なオーラを放っている。いや、それ以上かもしれない。

それに、彼女からは婚外恋愛をしていることに微塵も悪びれた様子はなかった。