「オンコールって、病院の携帯にくるでしょ……」
この小さな呟きは彼には届かない。
俊也さんのスマホ画面に表示されていたのは、"香山美智子"という女の人の名前。きっと、相手は彼の奥さんなのだと思う。
──そうそう、この間さー。香山先生の奥さんが産婦人科の病院にいるの見ちゃったんだけど
──えっ、じゃぁ妊娠??
──香山先生、子煩悩なパパになりそうだよね。幸せな家庭って感じで憧れるー
人の噂なんて、どこまで本当か分からないけど。
温め直したシチューも、トースターで焼いたパンも手をつけられる事はない。
あの人は、今頃、愛する奥さんの元に向かっている。
最初は彼が私を必要としてくれるなら、それでもいいと思っていた。けど、いつまでこんな関係が続くのかな。



