「と、とても……美味しかったです」

「ふふっ、お口に合って良かったわ」


空になったお皿にフォークとスプーンをカタンと置く。
正直、全然味なんてしなかったけど。ミチさんがふんわり笑うから、申し訳ない気持ちになった。



「ねぇ、珠里さん。こっちきて。見せたいものがあるの」


ニコニコとする彼女が手招きをして、誘導されるまま、隣の部屋に足を踏み入れた。



「この部屋がね、赤ちゃんの部屋なの」


間取りからいえば、ここは私の部屋位置。
そこには、木製のベビーベッド、くるくる回るメリーの玩具、可愛らしい赤ちゃんの帽子や靴が並んでいる。
子供のための淡くて優しい色をした部屋。



「凄い、ですね。うちなんてまだ全然……あ、」


飾り棚に置かれる写真立てが目に入る。
そこに写っていたのは、ミチさんのウェディングドレス姿で。彼女の隣で幸せそうに笑うのは──、まぎれもなく俊也さんだった。


あぁ、ここは俊也さんの家なんだ。と、自分の足元に顔を向ける。
なんでだろう。驚きより、不思議と"やっぱり"と思う気持ちの方が大きかった。



「この子の妊娠も、主人ったらとても喜んでくれて」

「……」

「まだ性別分からないのに、色々と買いすぎなのは分かってるんですけど」

「……」

「珠里さん?どうかしました?」

「……あ、いえ。すっごく可愛い赤ちゃんのお部屋でびっくりしちゃって!」

「そんなこと、ありませんよ」