エレベーターを下りて、ミチさんに教わった部屋番の301号室のインターフォンに手を伸ばす。



「……ん??」


白い扉の表札にはローマ字で〈kagawa〉と表記されているから、一瞬、思考が止まった。

いや、待って、香川なんてどこにでもある名字だもんね。加川、賀川……かもしれないし。と頭を大きく横に振る。




──香川先生の奥さんが産婦人科の病院にいるの見ちゃったんだけど


以前、職場で耳に入ってきた噂話。
こんな、大きなタワマンに住めるのなんて高収入の人だろう。

例えば、お医者さんとか──。




「珠里さん!いらっしゃい!!」


その時、にっこり笑顔のミチさんが扉を開けるから、心臓が止まるかと思った。





「お、お邪魔しまーす」

「どうぞ」


玄関棚には可愛らしいぬいぐるみが飾られていて、リビングのカーテンもカーペットもピンクで統一されている。
同じ間取りなのに全然違うなぁ。

何もない、うちとは大違いだな。なんて、感心してる場合じゃない。


大きな木星のダイニングテーブルには、ミートソースパスタとスープ、サラダが準備されていた。



「わ、凄い!お洒落なランチみたいですね。これ、ミチさんが全部?」

「えぇ、簡単なものだけど」


全然、簡単じゃないし!!

それに、もし、本当に俊也さんの家だとしたらどうすればいいのだろうか。