一瞬にして周りの空気が凍りついた。
なんで、この子がその事を知ってるの?
「うちの父ちゃんもかなりキレてるし、やばいんですよ。なだめんのが大変でー」
え、何?こんなデタラメ。一体、何を言って……。
「母ちゃんも、奥さんのとこに挨拶行っちゃうかもしれないですけど、いいですか?」
「……珠里、そんな状態だったのか?そんな話、聞いてないぞ」
「ちがっ、」
「姉ちゃんの不倫が原因で、家の中が険悪なムードで困ってるんですけどー!」
その子の叫ぶように大きな声がアパートの壁に響き渡る。
「やめてよ!ちょっと、あなたねぇ!!」
男の子の腕をグイッと持ったところで、自身の鞄が落ちた。
その勢いで鞄の中身が飛び出して、ファイルに入ったプリントがパラパラと地面に広がっていく。
──妊娠おめでとうございます(天使の絵)──
──妊娠から出産までの流れ──
──出産予約と費用について──
──お酒と煙草はやめましょう(クマさん涙)──
──ママ・パパ学級のお知らせ(ラッパの絵)──
さっきの産婦人科の受付で渡された資料だ…。
いかにも、妊娠しましたという見出しのタイトルものばかりで、可愛らしいイラストと共にプリントされている。
ピシリ、と全ての時間が止まったといっても過言じゃない。



