(夏休みあたりの話)




「大学卒業したら、籍を入れたいと思います」



一応の報告をした。一応、マンションに住まわせて貰ってるし。一応、学費、生活費、母親の施設入所の費用諸々の金銭援助うけてるし。

一応、……こんなのでも父親だし?




「相手は知ってると思いますが、この間マンションで顔を合わせた女性です。もう紹介の必要ないですよね」

「そうか、まぁ北川教授の孫娘さんもあきらめたし。お前の好きにしたらいい」

「じゃー、そういうことで」



「春多、ちょっと待て」


院長室を出ていこうと、ドアノブに手を伸ばしたところで進行を静止される。



「……何ですか?」

「いや、コホン。……ちゃんと、プロポーズは済ませたのか?」

「…………《《%size:10px|プロポーズ?》》」


プロポーズとは求婚して相手が結婚を承諾したら婚約成立となるやつだ。けど、書面上で契約を交わすわけでないから、結局ただの口約束にしかすぎない。

珠里さん自身、俺にベタ惚れで俺と籍入れる事を望んでいるのだから、既に成立しているようなものだし。子供も胎児段階でもう認知している。


そんなのわざわざしなくても──、




「いつ、何処で、どのような雰囲気で、どんな台詞を貰ったのか。一生に残る素敵な思い出にしてやるのが男ってもんだろう」