「あの、大丈夫ですか?」


わたしが声をかけると、ちょっと驚いた様子を見せたあと頭を軽くかきながら。



「いや……実は恥ずかしながら道に迷ってしまってね。地図のアプリを使っているんだけど、いまいち使いこなせていないみたいで」


落ち着いた声で、物腰のやわらかい感じの話し方。


話を聞くと、タクシーで取引先の会社に向かう途中で渋滞にはまってしまったらしく。



「アポイントの時間に間に合いそうになくてね。仕方なくタクシーを降りて電車を利用しようと思ったんだけれど、道に迷ってしまって。こんなことならタクシーに乗っていたほうが早かったかもしれないなあ」



「ちなみにどこに向かわれているんでしょうか?」