気がつくと、涙がこぼれていた。
亮が事件に巻き込まれたと聞いたときは、あまりに突然のことで信じられず、涙は出なかった。
ジケン。
ササレタ。
ビョウイン。
ハンソウ。
ソクシ。
母の口から出てくる言葉に、頭が追いつかなかった。
ようやく頭では理解できても、まるでどこかの小説の中の話を聞かされているみたいだった。
「ドッキリだよ?」とか言って、明日にでもけろっとして家に来る姿が容易に想像できた。
母のいつもと違う表情を見ても、からかってんの? と内心思っていた。
今目の前にいないだけで、いつもと何ら変わりない。
そう思っていた。
思っていたのに、学校に行っても、亮の家に行っても、肝心のあいつはどこにもいなかった。
代わりに担任から告げられた言葉と、あいつの机の上に置かれた花で、突然実感が襲ってくる。
心にぽっかりと穴が空いたような感覚。
周りにはクラスメイトがいる。
でも、そんなことは気にしていられなかった。
自分の意思とは関係なく溢れてくる涙を、止めることはできなかった。
それからどう1日を過ごしたのかはよく覚えていない。
