ミ〜ンミンミンミ〜ン。
風森町は蝉時雨が騒がしい。
私はニヤニヤふふふっと笑いが止まらないよ〜。
だってだ〜って中学校は夏休みに入ったのです。
期末試験も優等生の風銀星がみっちりたっぷりスパルタで勉強を教えてくれたお陰なんとか乗りきった。
数学は散々だったけど中間テストよりはマシな点数だったんだよ。
ねぇねぇ。
私、頑張ったでしょ?
兎にも角にも銀星ありがとー!
感謝してます。
そりゃあ学校だって勉強だって心底嫌いなわけじゃないのよ。
好きな友達も気の合うクラスメートもいるもん。苦手な数学さえなければ楽しくて楽しくて。
中学校生活、充実してる。
だけどやっぱり夏休みって大好きっ!!
時間がたくさんあるから妖怪探偵の依頼も見事にバシバシ解決しちゃうからね。
ビバ夏休み!
最っ高だあぁっ!
「願わくば『いつまでも 終わらないでね 夏休み』あれ? ははっ。短歌みたいになった」
ちなみに私は国語だけはまあまあ出来るの。五教科の中だったら結構得意なんだよ。えっへん。
私は図書館の横の風神神社の鎮守の森公園に一人で来ています。
狛犬のわん太が一緒に来たがったけど読書感想文の本を借りに行くって言って遠慮してもらった。
私はあくまで夏休みの宿題をしに来たのですと言うのは口実で。
で、ほんとはある妖怪と約束があったの。
相手の子から誰にも言わない内緒の約束だって口止めされちゃってるもんだから誰にも言ってないよ。
「はあ、暑いな」
私は木陰に入っていたけどやっぱり暑い。汗は吹き出してハンカチで抑えたり吹いても止まらない。
「ふっふっふ。裏ワザを使ってしまおうかな」
私は妖怪雪女と四神獣玄武の娘、雪女の雪華なんだよ。
他の雪女に比べれば暑さにはかなり強い方であ〜る。
でもでも今日の暑さは尋常じゃない。
雪女じゃない普通の人間だって猛烈な暑さには参ってしまうよね。
とろけちゃう〜。ほんとに。
雪女って冗談抜きでほんとのほんとに体が溶けちゃうから気をつけないと。
蒸気もプシュープシュー出てくるから人間に見られたら大変。大騒ぎになっちゃうよー。
「雪華必殺雪降らし」
なんて言っておいて雪というよりは妖力で冷気を肌から放出する私。
この技は雪女のママが大得意とする技で人間界の真夏に対抗するために編み出したんだって言ってた。
いつも私と一緒にいる神狐の銀星が今日は家の大事な用事とやらで海岸に出掛けたんだ〜。
ちょっとつまんないって思ってたところにお出掛けのお誘いが来たの。
ラッキー。
「やあ、雪華さん」
「茨木先輩」
図書館で借りてきた小中高生に話題の『謎解き♡怪盗魔法少女ギャル』の文庫本を読んでた私。
顔を上げると目の前には茨木先輩がいた。
甘さと妖艶さをあわせ持つ端正な顔立ちで女生徒のハートを鷲掴みな茨木先輩が凛とした雰囲気で立っている。
私は他の女の子みたいに茨木先輩にそんなにドキドキしないしハートを掴まれてないけど。
見た目は完璧にイケメンの人間だけど、茨木先輩の正体は茨木童子という鬼。
酒呑童子という鬼族のスーパースターの仲間で副総統頭なんだって。
ちなみに私と銀星はその昔茨木先輩に助けられたことがあって幼馴染み。
ぶっちゃけイマイチその辺の記憶は曖昧なんだけどね。
で、茨木先輩は私の通う中学校の生徒会会長をやってる。
「どうしたんですか? 制服姿でこんなとこに」
「生徒会の会議の帰りだよ」
「こんな暑い日に大変でしたね。私、水筒に麦茶を持ってきたんです。一緒に飲みませんか?」
「ありがとう。いただくよ」
あっ、ちなみに私の待ち合わせた妖怪は茨木先輩じゃない。
もし茨木先輩とお出掛けなんてしたら銀星にお説教をくどくど言われちゃう。
銀星は茨木先輩に敵対心丸出しであまり良く思ってないんだ。
茨木先輩はなにか企んでるんじゃないかと銀星は未だに警戒してる。
私の差し出した麦茶をごくごくと飲み干してから茨木先輩はキョロキョロ周りを見渡した。
「雪華さん、麦茶ありがとう、美味しかったよ」
「いえいえ。あの、茨木先輩? そんなに辺りを気にしちゃってどうしたんですか?」
またキョロキョロしてやがて茨木先輩はニンマリと笑う。
「はーはっはっ。どうやらいつもウロチョロ雪華さんの周りを離れない銀星くんの姿は無し。小うるさい邪魔者、騎士気取りの銀星くんは居ないようだね。実に愉快爽快。ついにやったぜ。俺にとって最高のタイミングではないか。ではさっそく雪華さん」
「は、はぁ? 何ですか?」
「俺と人間界を制圧支配して妖怪世界を確立しようか。俺と契りを交わして夫婦で妖怪に居心地の良い世界を創りあげよう」
「イヤです」
茨木先輩はベンチに座る私の横に腰を下ろして読んでた文庫本をサッと優しくてどかして私の両手をぎゅっと握る。
茨木先輩の思いと熱がじんわり伝わってきそうなゼロの距離感。
「連れないね。そんな連れないところがまた、雪華さん、君のすごく素敵な魅力だよね。他の女の子にはない毅然とした態度。なびかない揺るがない意思の強さ。美しいよ、雪華さん。瞳も綺麗だ。容姿もさることながら人を思いやる優しさ。内面の心も輝いてなんと美しいんだ。君こそやっぱり俺の花嫁に相応しい人だ。さあ、俺の想いに応えてくれ。そして、今日こそ、口づけを交わそう」
「ご、ごめんなさい!」
「な、なんだってぇ? 俺の求婚を断るつもりかい?」
「断るも何も。なんか途中から茨木先輩が早口過ぎて何言ってるのか分からなかった。頭に入ってこないんだもん」
「ガァーンッ。こうなったら強行突破だ。単刀直入に言うよ。雪華さん、俺は君が好きだ、大好きだ。君以外は見えない。君以外には花嫁は考えられない。そうだ、既成事実を作れば良いんだな。俺の愛を受け止めて。キスしちゃえば良いんだ。君も俺のことが好きになるよ」
茨木先輩に肩を掴まれて瞳の奥をじっと見つめられる。
いつか茨木先輩に迫られた時はファーストキスが奪われるかもとかって私の胸はドキドキしたの。
でもあんまりドキドキしないな。
茨木先輩は女心をくらくらと惑わす妖怪美鬼の茨木童子。
甘い妖気の香りと魅惑的な瞳に見つめられたらうっとりしちゃってさらには身動きが取れなくなるはずだった。
あら? なぜだろう。あれれ、大丈夫そう。
意識ははっきりだし。
私の体も自由がきく。
茨木先輩にがっしりと掴まれた肩の手さえどかせば良いだけ……。
「雪華さん」
「茨木先輩、私。ちゃんと恋した相手とファーストキスしたいです」
「キスが先でもきっと大丈夫」
茨木先輩の唇が近づいてくる。
キスしたらどうなっちゃうのかな?
こんなに言ってくれるならお試しでキスしてみる?
いやいやいや、はしたない。
なんて不純なの。
ファーストキスには憧れも興味もあるけど軽い気持ちで好きでもない人とするなんてやっぱりだめ。
一生の思い出だもの。
恋して両思いの人と素敵な場所とシチュエーションで。
それが私の譲れない理想だもん。
ちょっと揺らいだのは美鬼の妖力の仕業に違いないわ。
「雪華さん」
茨木先輩の切なそうな瞳甘く切なげな声。
視線が外せない。
茨木先輩の瞳が涙を浮かべて揺れてる。
私の胸の奥がトクンと跳ねた気がした。
風森町は蝉時雨が騒がしい。
私はニヤニヤふふふっと笑いが止まらないよ〜。
だってだ〜って中学校は夏休みに入ったのです。
期末試験も優等生の風銀星がみっちりたっぷりスパルタで勉強を教えてくれたお陰なんとか乗りきった。
数学は散々だったけど中間テストよりはマシな点数だったんだよ。
ねぇねぇ。
私、頑張ったでしょ?
兎にも角にも銀星ありがとー!
感謝してます。
そりゃあ学校だって勉強だって心底嫌いなわけじゃないのよ。
好きな友達も気の合うクラスメートもいるもん。苦手な数学さえなければ楽しくて楽しくて。
中学校生活、充実してる。
だけどやっぱり夏休みって大好きっ!!
時間がたくさんあるから妖怪探偵の依頼も見事にバシバシ解決しちゃうからね。
ビバ夏休み!
最っ高だあぁっ!
「願わくば『いつまでも 終わらないでね 夏休み』あれ? ははっ。短歌みたいになった」
ちなみに私は国語だけはまあまあ出来るの。五教科の中だったら結構得意なんだよ。えっへん。
私は図書館の横の風神神社の鎮守の森公園に一人で来ています。
狛犬のわん太が一緒に来たがったけど読書感想文の本を借りに行くって言って遠慮してもらった。
私はあくまで夏休みの宿題をしに来たのですと言うのは口実で。
で、ほんとはある妖怪と約束があったの。
相手の子から誰にも言わない内緒の約束だって口止めされちゃってるもんだから誰にも言ってないよ。
「はあ、暑いな」
私は木陰に入っていたけどやっぱり暑い。汗は吹き出してハンカチで抑えたり吹いても止まらない。
「ふっふっふ。裏ワザを使ってしまおうかな」
私は妖怪雪女と四神獣玄武の娘、雪女の雪華なんだよ。
他の雪女に比べれば暑さにはかなり強い方であ〜る。
でもでも今日の暑さは尋常じゃない。
雪女じゃない普通の人間だって猛烈な暑さには参ってしまうよね。
とろけちゃう〜。ほんとに。
雪女って冗談抜きでほんとのほんとに体が溶けちゃうから気をつけないと。
蒸気もプシュープシュー出てくるから人間に見られたら大変。大騒ぎになっちゃうよー。
「雪華必殺雪降らし」
なんて言っておいて雪というよりは妖力で冷気を肌から放出する私。
この技は雪女のママが大得意とする技で人間界の真夏に対抗するために編み出したんだって言ってた。
いつも私と一緒にいる神狐の銀星が今日は家の大事な用事とやらで海岸に出掛けたんだ〜。
ちょっとつまんないって思ってたところにお出掛けのお誘いが来たの。
ラッキー。
「やあ、雪華さん」
「茨木先輩」
図書館で借りてきた小中高生に話題の『謎解き♡怪盗魔法少女ギャル』の文庫本を読んでた私。
顔を上げると目の前には茨木先輩がいた。
甘さと妖艶さをあわせ持つ端正な顔立ちで女生徒のハートを鷲掴みな茨木先輩が凛とした雰囲気で立っている。
私は他の女の子みたいに茨木先輩にそんなにドキドキしないしハートを掴まれてないけど。
見た目は完璧にイケメンの人間だけど、茨木先輩の正体は茨木童子という鬼。
酒呑童子という鬼族のスーパースターの仲間で副総統頭なんだって。
ちなみに私と銀星はその昔茨木先輩に助けられたことがあって幼馴染み。
ぶっちゃけイマイチその辺の記憶は曖昧なんだけどね。
で、茨木先輩は私の通う中学校の生徒会会長をやってる。
「どうしたんですか? 制服姿でこんなとこに」
「生徒会の会議の帰りだよ」
「こんな暑い日に大変でしたね。私、水筒に麦茶を持ってきたんです。一緒に飲みませんか?」
「ありがとう。いただくよ」
あっ、ちなみに私の待ち合わせた妖怪は茨木先輩じゃない。
もし茨木先輩とお出掛けなんてしたら銀星にお説教をくどくど言われちゃう。
銀星は茨木先輩に敵対心丸出しであまり良く思ってないんだ。
茨木先輩はなにか企んでるんじゃないかと銀星は未だに警戒してる。
私の差し出した麦茶をごくごくと飲み干してから茨木先輩はキョロキョロ周りを見渡した。
「雪華さん、麦茶ありがとう、美味しかったよ」
「いえいえ。あの、茨木先輩? そんなに辺りを気にしちゃってどうしたんですか?」
またキョロキョロしてやがて茨木先輩はニンマリと笑う。
「はーはっはっ。どうやらいつもウロチョロ雪華さんの周りを離れない銀星くんの姿は無し。小うるさい邪魔者、騎士気取りの銀星くんは居ないようだね。実に愉快爽快。ついにやったぜ。俺にとって最高のタイミングではないか。ではさっそく雪華さん」
「は、はぁ? 何ですか?」
「俺と人間界を制圧支配して妖怪世界を確立しようか。俺と契りを交わして夫婦で妖怪に居心地の良い世界を創りあげよう」
「イヤです」
茨木先輩はベンチに座る私の横に腰を下ろして読んでた文庫本をサッと優しくてどかして私の両手をぎゅっと握る。
茨木先輩の思いと熱がじんわり伝わってきそうなゼロの距離感。
「連れないね。そんな連れないところがまた、雪華さん、君のすごく素敵な魅力だよね。他の女の子にはない毅然とした態度。なびかない揺るがない意思の強さ。美しいよ、雪華さん。瞳も綺麗だ。容姿もさることながら人を思いやる優しさ。内面の心も輝いてなんと美しいんだ。君こそやっぱり俺の花嫁に相応しい人だ。さあ、俺の想いに応えてくれ。そして、今日こそ、口づけを交わそう」
「ご、ごめんなさい!」
「な、なんだってぇ? 俺の求婚を断るつもりかい?」
「断るも何も。なんか途中から茨木先輩が早口過ぎて何言ってるのか分からなかった。頭に入ってこないんだもん」
「ガァーンッ。こうなったら強行突破だ。単刀直入に言うよ。雪華さん、俺は君が好きだ、大好きだ。君以外は見えない。君以外には花嫁は考えられない。そうだ、既成事実を作れば良いんだな。俺の愛を受け止めて。キスしちゃえば良いんだ。君も俺のことが好きになるよ」
茨木先輩に肩を掴まれて瞳の奥をじっと見つめられる。
いつか茨木先輩に迫られた時はファーストキスが奪われるかもとかって私の胸はドキドキしたの。
でもあんまりドキドキしないな。
茨木先輩は女心をくらくらと惑わす妖怪美鬼の茨木童子。
甘い妖気の香りと魅惑的な瞳に見つめられたらうっとりしちゃってさらには身動きが取れなくなるはずだった。
あら? なぜだろう。あれれ、大丈夫そう。
意識ははっきりだし。
私の体も自由がきく。
茨木先輩にがっしりと掴まれた肩の手さえどかせば良いだけ……。
「雪華さん」
「茨木先輩、私。ちゃんと恋した相手とファーストキスしたいです」
「キスが先でもきっと大丈夫」
茨木先輩の唇が近づいてくる。
キスしたらどうなっちゃうのかな?
こんなに言ってくれるならお試しでキスしてみる?
いやいやいや、はしたない。
なんて不純なの。
ファーストキスには憧れも興味もあるけど軽い気持ちで好きでもない人とするなんてやっぱりだめ。
一生の思い出だもの。
恋して両思いの人と素敵な場所とシチュエーションで。
それが私の譲れない理想だもん。
ちょっと揺らいだのは美鬼の妖力の仕業に違いないわ。
「雪華さん」
茨木先輩の切なそうな瞳甘く切なげな声。
視線が外せない。
茨木先輩の瞳が涙を浮かべて揺れてる。
私の胸の奥がトクンと跳ねた気がした。

