竹林を進む銀星はただ闇雲に歩いているわけではなさそう。
 銀星ってば鼻の利く神狐だもんね。うんうん、頼りになるぅ〜。

「ねぇ、もしかしてその黒いお面から何か嗅ぎ取ったの?」
「うん」

 銀星は口数が少ない。
 右手にお面、左手に私の手をぎゅっと握る銀星の顔にはちょっとの怒りと寂しさが浮かんでるように見える。

「ねぇ、銀星〜。私と茨木先輩とのやり取りに怒ってるの? それともパパ達が記憶をいじくってたこと?」
「そのどっちも」
「仕方ないよ。茨木先輩はいつもあんな調子だもん。それに記憶のことは私と銀星を守ろうとしたからこそだし」
「それで雪華は大人達を許せるの? 憤りとかない? 僕は物わかりが悪すぎるのか」
「うーん。私ちょっと怒ってた。だってね、茨木先輩との思い出がすっぽりないのは悲しいよ。でも、抗議はしても銀星には家族で長引くような喧嘩をして欲しくないな」
「雪華がそう言うならしない」
「うんっ、良かった。銀星は過保護なの、イヤなんだね」
「えっ?」
「たとえばー。銀星のパパ、銀翔様の命令で、私と銀星を守るために狛犬のわん太がいてくれるでしょ。どこかで気にくわないのかなって私にはそう見えるよ。銀星って反抗期?」
「雪華の言うとおりだよ。僕はこれが反抗期だって自覚してる。だから父さんに反発してるんだって。理由も原因だって分かってる。抑えようとは思う。なるったけ不機嫌にならないように。言われた神社《いえ》の仕事だってちゃんとこなすよ。それにわん太のことは好きだ。可愛いし一緒にいて楽しい」
「私だって銀星と同じだから何か分かるな。意味もなくちょっと苛々しちゃうの。私を放っておいてって今は構わないでって思う時あるよね」
「まあ雪華だけだからね。雪華だけに話すし見せてる。こんな苛立ってる僕はイヤ?」
「まさかぁ。イヤなわけないじゃない。私は銀星のこと大好きだよ」
「だ、大好き?」
「うんっ! だって銀星と私本当の兄妹みたいに仲良しだって思うもの」

「雪華の好きと、僕の好きとは違うんだけど……」
「なんか言った?」
「まっ、いいや。今はまだ」

 心の内を外に出したからか銀星の顔は少し晴れやかになってた。
 それは私も。
 私は今の暮らしに不満なんてない。そばには大好きな家族や仲間がいてくれる。半妖だけど差別めいた扱いも受けたことないもん。
 でも思うんだよね。
 この頃は余計に。
 周りの大人達が必死に私や銀星を守ってきてくれてたからこそ平和に楽しく生活出来てるんじゃないかって。

 妖怪探偵をやるようになってから私はまざまざと間近で知るようになった。
 悲しい現実だけど妖怪にも人間にも悪い奴はいるんだよね。
 そうしたずるい奴に狙われるのは弱い立場の人や妖怪で。
 黒い妖気を吐き出す妖怪は純真無垢な子供や女の人やちょっと弱っていたりする人に獲物を狩りに来る猛獣みたいに忍び寄る。

「ここだ。ここからお面に付いてた鬼婆の残り香がする」
「ここに?」

 私達の目の前には荒れて古びた茅葺屋根の一軒家が建っている。
 竹林のどこかから獣の鳴き声がしていた。