熱い熱い真夏に、不思議や不思議、雪が降る。

 夏真っ盛りの季節に、不似合いなぐらい冷たく清らかな真っ白い牡丹雪が次から次へと舞い降りる。

 風雪舞う、しんと静かな夜の風森町を少女が軽やかに走り、屋根を跳ぶ。
 後ろから白銀の子犬らしき獣がついていく。子犬か、狼か。
 ――獣は喋りながら。
 あぁ、どうやら白銀に光るきつねのようだ。

「雪華《ゆきか》あ、ちょっと待ってよ」
「待てないよー。銀星《ぎんせい》、早く早く」
「今夜は妖気が乱れる日なんだ。雪華だって満月で妖気が暴走してるじゃないか」
「ふっふーん。どうせ地上に届く前に、銀翔様の加護結界で無効化されて、雪は消えてしまうわ」
「そりゃ、そうだけど」

 ――ぼふっん!
 煙がモクモクと立ち上り、中から少年が出てきた。
 先ほどのきつねの子の姿が変わったようだ。

「早くぅ、銀星ー! 土蜘蛛に逃げられちゃう」
「分かった。やれやれ……。誰だよ、妖怪探偵をやろうなんて言ったのは……。ははっ、ボクだけど」

 少年は自嘲するように「雪華に追いつけない、妖力の暴走をコントロール出来ないなんて情けないや」と笑った。
「いや、気持ちを切り替えなくっちゃ。僕は出来る子だろう?」
 母と父がいつも言う。励ましてくれる。銀星はすごいぞ、やれば出来る子だって。
 少年銀星は反転、瞳がきらっと光り、凛々しい表情に変わる。
 両手の平を上に向け、フーッと息を吹きかけると、手の平から炎をまといながら赤々と燃え光る細いきつねたちが出て来た。

「追って――。さぁ、追うんだ、妖狐特製火ぎつねたち」

 きつね火から出来たきつねたちは、空中を踊るように進み、少女とその先に待つ禍々しい妖気の持ち主を追う。

「同級生を返してもらわないとね」

「雪華さまー、銀星さまー」
「いっけない。狛犬たちが嗅ぎつけてきた」

 雪華と銀星は、夜の町をひた走る。
 あとから来た狛犬と狛うさぎが、守るように足元に追いついた。
 雪はあれよあれよと吹雪いて、町を白く染め上げる。

 その様子を、二つの影が見張っていた。
 一人は空中で、人の姿に獣の耳と大きな尻尾を持つ者。
 一人は小高い丘から、小さき角を生やした者。

 両者は共に夜目を利かせ、遠くまで見ることの出来る妖力を持つ――。

 視線の先には半妖の雪華と銀星、じっと二人を見つめている。