2人で行く当てなどなく。

だけど、このまま別れるのは、後味が悪すぎる。

結局、ふたりで夕方の公園に向かった。

2人きりの公園で、ベンチに座り込む。

冬夜くんの方をちらっと見ると、冬夜くんと目が合った。

私は驚いて瞬きを繰り返す。

「弥生はさ、」

そう話を切り出してきた冬夜くんに、私は耳を傾ける。

「弥生は昔から、そういう……誰にも言わずに抱えるじゃん。だからさ、怖いんだよ」

冬夜くんが、怖い……?

「……弥生が、僕の知らないところに行ってしまう気がして」

冬夜くんの、知らないところ……?

「最近はさ、僕自身だって、大学が忙しくてあんまり会えてなかったからさ。すごく、寂しかった」

私は、「うん」と、相づちをする。

「僕だって、学校では、常に樋渡家の看板を背負って生きてるから、いつだって気が抜けないし、樋渡家として、家の顔に泥を塗るような真似は出来ない」

確かに、そういうことに関しては、きっと冬夜くんの方が大変なのだろう。

ただでさえ、冬夜くん兄妹の親は厳しい人たちだ。

親戚に値する私でも、話すときは緊張してしまう。

悪い人ではないんだけどね。

「そっかぁ……。そうだよねぇ……」

冬夜くんは一息吸って、

「でも、それを運命だって受け入れられるようにしたら、楽にはなったかな」

運、命……?

「自分の宿命というか、責務というか。確かにそれで大変なこともあるけど、樋渡冬夜として生まれてなかったら、今の妹たちに会えてなかったしたしね」

最後は少し重く、だけど、最後は明るい声でそう言った。

「本当に冬夜くん妹ちゃんたちの事好きだよね」

私がそう言って思わず笑ってしまうと、

「うん」

と、幸せを噛み締めるように言った冬夜くん。

こんなに思って貰えて、妹ちゃんたち幸せだよなぁ。

横顔で微笑んでいる冬夜くんが、あまりにもかっこよすぎて。

両想いになれたら、隣に並んで、私も一緒に笑えるのだろうか。

ついその画を想像してしまい、顔がポポっと紅くなるのを自分でも感じる。

恥ずかしくなって思わず顔を背けてしまう。

「えっ、弥生どうかしたっ?」

冬夜くんが驚いたような声を出すけど、顔を背けていてどんな表情をしているのかが分からない。

「なっ、なんでもないっ!」

声がめちゃくちゃ恥ずかしいくらいに上ずっていて、「そうだよ」と言っているのと同じだ。

はぁぁぁ自分なにやってんの! いかにも怪しさ満載じゃん!

それでよけいにあわてふためいてしまった。

「弥生、とりあえず落ち着こう?」

冬夜くんに諭されて、深呼吸をして落ち着かせる。

「うっ……、ごめんなさいっ……」

お陰で落ち着いたけれど、今度は後悔の波が襲ってくる。

好きな人の前で、自分はなんて事をしてしまったのだろう……。

そんな私に冬夜くんは

「なにがあったのかは分からないけど大丈夫だよ」

そう言って、優しく微笑んでくれる。

それでも私が申し訳なさそうにしていると、

「じゃあさ、弥生。一つ聞いていい?」

私だけがギリギリ聞こえるくらいの声量で、冬夜くんは呟いた。

「う、うん。なに?」

私が緊張して返す。

冬夜くんは、深呼吸をしてから、こう言った。

「弥生ってさ、好きな人いるの?」

それを聞いて、叫ぶのを抑えることは出来たけど、顔の火照りは止まらなかった。

目の前に居る冬夜くんです、なんて言える訳がない。

けれども、私の反応は誰が見ても「Yes」と言っているようにしか見えないだろう。

冬夜くんに、私が他に好きな人が居るという勘違いはして欲しくない。