「ねえ、さくら」

 ロッカールーム横のシャワーで汗を流しながら、萌音が話しかけてきた。

「桧山さん、めちゃくちゃカッコいいね」

「うん……」

 桧山一尉と同じコートに立って、一尉のパスを受けて、一尉と一緒に敵のディフェンスを抜いた。
 最高に、幸せな時間だった。

「萌音、教えてくれる?」

「なあに?」

「さっき桧山さんが言ったこと、萌音も気が付いてた?」

「……うん」

 萌音は言った。

「気が付いてたよ。でもスピードと瞬発力がさくらの持ち味だから、あれこれ細かく言うと、さくらの長所を消しちゃうと思ったの」

 シャワーカーテン越しだけど、萌音の表情が見える気がした。萌音は小学校からの、私の親友だから。

「今回のこと、さくら一人が悪いとは思っていないよ。カリカリするだけでさくらを活かすようなプレイを組み立てられなかった、美樹や裕子にも責任があると思う」

 涙が溢れそうになった。
 でも私は、あの日のようにシャワーで涙を洗い流して、努めて明るい声で、言った。

「萌音。私、バスケ部に戻ろうと思う」

 萌音のブースの水音が止まった。

「部に戻るときにコーチだけじゃなくて、美樹や裕子にも土下座するつもりだけど、萌音、一緒について来てくれる?」

 いきなり私のブースのカーテンをめくって、萌音がニコニコの笑顔を突っ込んできた。

「そう言ってくれるのを待ってたよ、さくら」