下を向く私に、桧山一尉は語りかけた。

「さくら。俺は戦闘機(ファイター)パイロットだが、俺たちに一番求められるのは、チームワークなんだ」

「……」

「どんなに優れたパイロットでも、単機で敵編隊に突入したら、生きては帰れない。味方がいてこそ、初めてまともな勝負になる」

 一尉は私と萌音に、優しく語り続ける。

「チームワークなんて聞くと、言葉遣いとか態度とか、そんなふうに思われがちだが、そうではなくて、敵味方の位置だと考えればいい」

「敵味方の、位置……」

「自分が敵の攻撃を(かわ)すために急機動すると、味方は自分からみてどの位置になるのか。そもそも味方は、攻撃中なのか回避中なのか。上昇しているのか、降下(ダイブ)しているのか……。味方をカバーできなれば、次に墜とされるのは自分だ」

「……」

「そしてこちらを狙う、敵の動き。複数の敵味方の意図と位置を、リアルタイムにイメージできるか。俺は空中戦の秘訣を問われれば、そう答えることにしている」

「敵味方の、意図と位置……」

 私は一尉の言葉を、繰り返した。

「さくら。お前は賢いし、フィジカルもテクニックも並外れている。ただ、どんな局面でも、全部一人でなんとかしようとしてこなかったか?」 

「あ……」

 そうだ。コーチにも何度も同じことを言われた。囲まれる前に、早くパスを出せと。

「これまではお前の個人スキルでなんとかできただろう。だが県や全国レベルでは、そうは行かない。自分に優るライバルがごろごろ出てくる。それでもお前は、今のスタイルを貫くつもりか?」

 私は勘違いしていた。
 私は自分がチームで一番、勝ちにこだわってるなんて思っていたけど、私はただ、自分自身にこだわっていただけなんだ──。

 うなだれる私の肩を、桧山一尉はぽん、と優しく叩いて、微笑みかけてくれた。

「シャワーを浴びてこい。家まで送っていく」