「…おれもね、今日萩ちゃんと寄り道すんの結構楽しみにしてたんだ〜」

「えっ、そうなんですか?」

「うん。だからさ、萩ちゃんが元気になったら違う日に行こっか」

「は、はい…っ!」

「……あとさー」


先輩が右手で私の手をそっと握る。


「今度おれもパーカーかスウェット貸すからさ。次からはおれのだけ着てくんない?」

「えっ…?あ、はい…」


何のことだろうと思いつつ、眉を下げて笑う先輩から目を逸らすことができなくて、曖昧な返事をした。


ふと、私は心の中で「あっ…」と声を漏らす。


───先輩の耳、赤い。


先輩の耳が赤くなる理由をこの時の私はまだ知らない。