「ところで、きみ一人で帰れそう?まだ怖いなら家まで送ろうか?」

「へあっ、い、だいっ、大丈夫、です…!!」


助けてくれた上に送ってもらうなんて、そこまで迷惑はかけられない…!


「そう?なら、気をつけて帰りなね」

「はいっ…!」


男の人は、「じゃあね」と言って背中を向けて歩き出す。


「……あっ!あのっ…!!」


私としたことが、お礼を伝え忘れていた。

咄嗟に彼のパーカーの袖を掴むと、「んー?」と嫌な顔一つせず、不思議そうな顔で足を止める。


「あの、えっと……た、助けていただき、ありがとうございました……」


目を見てしっかりお礼を言うと、男の人はフッと柔らかく微笑んで。



「どういたしまして」



彼の大きな手が私の頭の上に乗せられる。



───私は、この日、この瞬間。

彼の笑った表情を見て、生まれて初めて一目惚れをした。

優しい瞳で笑いかけてくれる彼が強く目に焼きつく。






私、萩野(はぎの) 芽依(めい)は、目の前にいる男の人に恋をしてしまったのだ───。