マスクをしていて口元は見られていないが、ぎゅっと唇を噛み締めて、目の前にいる男を睨みつけた。
「好きな人に迷惑かけたくないならさっさと帰れ。逆に芽依のせいで先輩が風邪引いたらどーすんだよ」
「……」
「早く保健室行け、ばか」
玲太くんが鞄を押しつけてきて、そのまま教室を追い出される。
扱いが雑な玲太くんに少し苛立ちを覚えたが、仕方なく保健室へ行くことにした。
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重い足取りで廊下を進むが、次第に頭がグラグラしてくる。
まずい、熱が上がってきた。
朝、家を出る前に測った時は37.7度くらいだったから今はもっとそれ以上かもしれない。
本来なら学校を休んでいたけど、今日は先輩と大事な約束があるから、それをどうしても破りたくなくて来たのに…。
『───…その状態で一緒にいられる方が迷惑なのわかってる?』
玲太くんの言う通りだ。
風邪を引いたまま先輩と会うなんて無理な話。
私はどんだけ馬鹿なんだ。
「……家帰りたくない」
ぽつり、本音が口から出てしまう。
下を向きながら歩いていると、
───ガシッ。
突然、後ろから誰かが私の腕を掴んできた。



