「……芽依」
顔を両手で覆い、先輩との幸せな時間を噛み締めていると、後ろの方から聞き慣れた声がした。
振り返ると、黒のバケットハットを深く被り、マスクをつけている女性が呆然と立ち尽くしている。
「あっ…」
目の前にいる人物が一体誰なのか、疑わなくてもわかる。
「お、お母さん、おかえり。昨日昼に帰ってくるって言ってなかった?」
「娘の誕生日だって言ったら、早く帰らせてもらったの」
「そ、そうなんだ…」
母は、人差し指でくいっとマスクを少し下に下げた。
そして、強張った表情で一歩足を踏み出して、そのまま私の前に立ち止まる。
「…誰なの?」
「えっ…」
「なんで同じマンションから芽依と男の子が一緒に出て来たの?」
「あっ、えっと…」
無表情で見下ろすお母さんは、どこか少し怖かった。



