あなたの笑顔が好きだから。


先輩と同じ方向へ視線をたどっていくと、いつの間にか自宅前のマンションに到着していることに気づいた。

先輩は、私の腕を握っていた手をそっと離す。


「……」

「……」


見つめ合う私たちの間に、沈黙が降りた。

さっきまで怖い顔をしていた先輩の表情は、今は無表情だ。

ドクンッ…と、心臓の音が徐々に大きくなっていって、緊張感が高まる。

目を逸らせないまま、きゅっと口をへの字に結んで黙っていると、先輩はゆっくり手を動かし始める。

先輩の手が私の顔へ伸びてきたかと思ったら。


「んぶっ…!?」


それは突然のことで。

ごつごつとした手が私の頬をムギュッと挟むようにして掴まれる。


「こんっっっのおバカッ!!何してんの、こんな時間に!夜中に女の子1人でうろついてたら危ないじゃん!」

「おひょっ…ひょへんひゃはい…」

「何言ってんのかわかんないんだけど!?」


いや、それは先輩が私の両頬を挟んでいるからでは…?


オロオロしている私に先輩は、はぁ〜〜っ…と大きなため息をついて「萩ちゃんがどっか行っちゃうかと思ったじゃん…」と視線を足下に向けながら呟いた。