『連れて行ってほしいです』
そう答えようとした時だった───…。
「萩ちゃんっ!!」
ひどく焦ったような声がして、咄嗟に振り向いた。
何度も聞き慣れた声、呼び方。
誰が私を呼んだのか、すぐにわかった。
視線の先にいるその人物に、大きく目を見開いて。
「真ちゃん先輩」
ぽつり、小さく呟くように先輩の名前を口にした。
「んあ?お前、もしかして深森さんとこの末っ子くんかぁ?」
「えっ、知り合い、なんですか?」
「おぉ、まあ、ちょっとなぁ…」
何やら2人は顔見知りのようだが、真ちゃん先輩は、男の人の方へは一切目を向けず、怖い表情を浮かべてこちらに近づいてくる。
そして、目の前に立ち止まったかと思えば、ガシッと私の腕を掴んで「帰るよ」と一言だけ発して歩き出した。
「えっ、あっ、あのっ、先輩…」
引っ張られるがままに、歩かされる。
何度か先輩に声をかけたが、先輩は聞く耳をもってくれることはなかった。
「し、真ちゃん先輩っ!」
今度は大きな声で呼ぶと同時に、先輩はピタリと足を止める。
「……家、着いたよ」
「へっ…?」



