先輩は、私の真っ直ぐに私の目を見て、こう言った。
「萩ちゃんに出会えてよかった。本当にありがとう」
ドクンッ…と、心臓が音を立てる。
一瞬にして涙が引っ込んだ。
それと同時に、体全身がじわじわ熱くなっていく。
「イルカショー見に行こっか〜」と言って、立ち上がる先輩の服の袖を咄嗟に掴んだ。
「せ、せんぱい…」
「ん?どしたの?」
手が震える。
心臓もうるさくて、周りの音が耳に入ってこない。
だけど、今、私はものすごく先輩に『触れたい』と思ってしまった。
「こ、小指を握っても、いい、ですか…?」
「へっ?小指?…別にいいけど。逆に小指だけでいいの?」
「はい。小指だけでいいんです」
不思議そうに首を傾げる先輩は、「んじゃ、はい」と左手を出してくれて、私はそっと小指を握った。
今はまだ、小指だけで十分だ───…。
でも、いつか先輩の側にいられるようになったら、その大きな手で私の手を包み込んでほしい。
先輩、あのね。
眩しい笑顔の先輩の隣に私がいて、そんな先輩を独り占めしたいって伝えたら、どうしますか?
───…なんて、心の中では何でも言えるけど、告白する勇気すらないのに、ただただ先輩への気持ちが大きくなっていくばかりで。
想いを伝えるのは怖いけど、今はもう少しこのままでもいい、よね…?



