「…で?このまま芽依と会わなくていいの?」
「連絡先知らないし、会えるわけないじゃん」
「終業式終わったら聞きに行くって言ってたくせに、何で交換しなかったんだよ」
「何でって……」
夏休み前日の終業式。
おれは、萩ちゃんの連絡先を聞こうと、彼女が来るまで生徒玄関で待つことにし、あわよくば一緒に帰ろうと思っていた。
しかし、彼女の隣には、見知らぬ男がいて、名前は、まさかの"りょうたくん"ときた。
その男は、慣れた口調で萩ちゃんのことを『芽依』と呼び、更には鋭い目つきで睨んできて、これは確定だ、と胸元あたりに痛みが走った。
2人の雰囲気と距離感を目の当たりにして、あぁ、なるほど…と確信したのだ。
「……1年にあんなイケメンがいるとか聞いてねえし…。そもそもおれに勝ち目ないじゃん…」
萩ちゃんへの気持ちを自覚したというのに、気づけば失恋とか、ダサすぎる。
あまりの気まずさと悲しさで結局、連絡先を聞くことを諦めて今に至るというわけだ。
頭を抱えながら弱気になっているおれを見た麻弥は、「ん…?」と小首を傾げる。