ゆっくり、話そうか。

雨粒を受け止めていた葉っぱが、蹴られた振動に耐えられなかったのだ。
雨宿りしていたはずなのに、していなかったも同然なほど二人揃ってずぶ濡れになる。

「うそやんっ、もうぅぅぅっ、ほんっまに運ないっ。虫っ、虫はっ?虫ついてない!?ちょっと見て??」

言いながらその場でピョンピョン跳ね、その後くるくる回ってまた跳ねる。
びしょびしょになったポニーテールがゆらゆら動く。
子供みたいにはしゃいでいるわけでもないのに、本人は必死だというのに、日下部には喜んで飛びはねているようにしか見えなかた。

「はいはい、分かったから、ちょっとじっとして」

「は、は、はわわわわ、は、は、、は、早くぅ、早く取ってぇ」

「まだ付いてるかどうか分かんないから、ほら、力抜いて?」

先程までの怒り心頭もどこへやら。
今はもうそんなことどうでもよくなっていた。
大人しく言われた通りに従い、胸の前で手を合わせたやよいがすがる思いで日下部を見上げた。
額に貼り付く前髪が目に入りそうになっている。
瞬きする度に睫に当たっていたため、そのまま七三にぴっちり分けてやった。

「冗談もからかいもなしやで?」

何かまたからかわれると察したやよいが釘を刺す。

「分かってるよ」

頭のてっぺんから足元までくまなく探したが虫の姿はなく、くっついているのは葉っぱだけだった。
露になったうなじに後れ毛が寄り添い、小さな樹の葉が並んでいる。
指先で摘み、肌に触れないよう慎重に取り除く。
すると思いがけずに先日のコピー室での出来事が思い返され、肌をかすめたときの感触までよみがえった。

「園村さんは化粧しないの?」

仕切り直しのつもりで話題を振る。

「せぇへん。日焼け止めだけ。お金もったいないしやり方知らんし」

そうだろうな。