ゆっくり、話そうか。

ちょっとやりすぎたかと思ったものの、やよいの表情をここまで変化させたことへの満足もあった。
それでもしっかり、瞳は日下部を捕らえている。

やはり、いつもこうやって重なる。

自分から逸らせる理由もなくて、そのままやよいを見つめた。

「なんなん自分っっ、そんなっ、なんやと思ってんの!?」

どこからがわざとだったのかは知らない。
けれどやよいの中では、どれもこれも冗談や反応が面白いからという理由でやってもらっては困ることばかりだった。

ふ、と、首筋が熱くなる。

真っ先に思い返したのはコピー室でのあの一件。
こちらを見ていた日下部と視線が絡んだのも、手が触れたのも、邪魔をしたのも、首筋を唇がかすめたのも…。
意識してると知られたくなくて、咄嗟に手で首筋を隠した。

お、
お…、

「おちょくってんのかぁっ!」

泣きそうで、でも絶対泣きたくなくて、それを我慢しているのも胸が悪くて、腹が立って、怒りの解決法が見つからず、まず目の前に立ちはだかっている樹の幹にやつあたりして蹴りを入れたのだが、

「ちょっと…」

焦って腰を浮かせた日下部の後に続いて、ざっばぁぁっという音を立てて上から勢いよく水が落ちてきた。