ゆっくり、話そうか。

今までしてきた事や、無意識にやっていたことも止めなければならない。
姿を観れば目で追っていたこと、美味しいものを食べたら日下部にも食べてもらいたいと思ったこと、なんでもかんでも日下部に繋げて考えていたこと。
上げだしたらきりがないくらい、生活の中に日下部が染みていた。
フラれた後は特に。
意識しなくてもそうなっていたのだから、意識して一つずつ消していくのは至難の技だ。
無駄だとも知らずに、こんなにも自分の中に溢れさせていたなんて。

けれどあの頃の自分を哀れだとは思わないし、今の自分も思いたくない。
だから、そんなふうに思ってしまうようなことはこれ以上聞きたくはなかった。

「ふーん、消したんだ」

顔が見れないから表情が分からない。
声色だけだと、その程度だったのかと言われているようにも取れる。

「消したよ。届かんもんは持ってても仕方ないししんどいだけやから。ていうか、もうこれ以上突っ込んだこと訊かんといてもらえる?これでも多少の動揺はあるんやから」

優越感が好きなのか、この男は。

もしかして女の気持ちをもてあそぶとんでもない男だったのかもしれない可能性に、肌寒さとは違う震えを感じた。
なんにせよ他を当たってほしい。
なんなら今すぐ戻って迫り来る女達を拒絶した後、同じ質問をして気分を高めりゃいい。
ターゲットを変えてほしい。
やよいにはもう、その優越感にエサを与えてやれるだけの気力は残っていなかった。

「なんで動揺するの?消したんなら関係なくない?」

「告白して玉砕した事実は変わらんやん。こんな話になると思い出すやん。記憶なぞってしまうやん。古傷いたぶるようなことやめて」

なぜそうもこの話題にぐいぐい来るのか。
傷付いてることを気にかけてはくれないのか、こんなにはっきり言っているのに。