ゆっくり、話そうか。

日下部のスマホに電話をかける事と、これで見つかるかもしれないという思いが合わさって、体全体が激しく脈を打ち始めた。
電源が入っていますように、バックパックに入れてませんようにと祈る中、プップップという音の後に呼び出し音が鼓膜を震わせる。
そしてその直後、ごくごく僅か、本当に小さな小さな電子音がどこかから聞こえてきた。
バックパックからではない。
確かに林の中。

いた!

しかし出ない。
どれだけならしても出ない。

「倒れてるとか?」

ドキドキが止まらず、危うく手に持ったスマホを落としそうになる。
もしかしたら知らない番号だから出ないのかもしれない。
不審がるなら既に切られているはずだ。
それならばと、その電子音を頼りに林の奥へ入っていく。
進むにつれて音は大きくなり、周りに生える細い木々の幹もどんどん太くなっていく。
そして一際大きな気の辺りで、なにかが寄っ掛かっているのが見えた。

近づくと間違いなく人で、

「よかったぁ、見つかってぇ」

間違いなく日下部だった。
安堵で腰が抜けそうだ。
走ったせいで笑っている膝をさすり、とりあえずその場にしゃがみこんだ。
どっと吹き出した汗をぬぐい、当たり前のようにそこにいる日下部を見上げる。

「なにしてんの、こんなとこで」

「園村さんこそ何してるの?そんな格好で」

抱っこひもを彷彿とさせるやよいのスタイルに、日下部がプッと吹き出した。

「二つも持たれへんもん」

言いながら日下部の方を降ろし、自分の前へ置いて差し出す。

「わざわざどうも」

やよいの前まで移動し、バックパックを受け取った日下部がそこに腰を下ろした。
通話状態にしたスマホを耳に当てる。
つられてやよいも耳に当て、目の前にいるにも関わらずスマホでのやり取りに応じた。

「もしかしなくても探しに来たんだよね」

実物の日下部の声と、機械を通した日下部の声が二重になって聴こえる。
けれど鼓膜を直接震わせる日下部の声の方が存在感を増していて、まるで至近距離の耳元で囁かれてる気がして慌てて通話を終了させた。