ゆっくり、話そうか。

しかし、しばらく進むと茂みの高さは先程より倍以上になっており歩いた後もすっかりかき消されていた。
もしかしたらここまで来ていないのかもしれない。
引き返そうと思えばまだ何となく戻る道は探せる。

けれど、
じゃあ、
自分は何のために飛び出して、荷物までもってでてきたのだ?

どうしようかと迷っていると、ふとあることを思い出した。

「番号、私知ってる…」

あの日渋々な日下部になげやりに告げたことで繋がった二人のスマホ。
なんだかんだと慌ただしくしていたためすっかり着信履歴から削除するのを忘れていたが、そう言えばまだここに残っている。
でも、かけてもいい許可などもらっていない。
友達とのやり取りさえ拒否しているのに、友達でもないただのクラスメイトがかけたりしたら逆鱗に触れやしないだろうか。
いや、ただのでもない。
結構な迷惑をかけたクラスメイト。
しかも、電話なんかかけないと啖呵を切っている。

「もうっ、うだうだ言うてても始まらん!日下部くん、かけるからっ」

自分のバックパックからスマホを取り出し、逸る気持ちを抑えつつ着信履歴をスクロールする。
普段通話アプリを使用しているやよいの着信履歴から、日下部の番号を見つけ出すのは簡単だった。
見たこともない、名前の登録もない番号は一つだけ。
着信日付もちょうどこの辺りで、その日に電話が来たのは一件だけ。