ゆっくり、話そうか。

万智にも誰にも声をかけずに、自分こそ迷子になって戻れなくなったときの事など考えもせず。
バスが上ってきた道を逆に下っていく。
キャンプ場の敷地内にいる可能性は低い。
部屋に戻ったことも考えにくい。
一人になりたいから飛び出したのだ。
様子を見るために誰かが来たら対応がめんどくさいし、自分ならすぐに見つかる部屋などに逃げ込んだりしない。
絶対林だと読んで突っ走った。
前に日下部の大きなバックパックをかけているため、跳ねる度に顎にヒットして痛い。

「ったくっ、偉そうなことばっかりいうくせにっ、子供かっ」

自分史上マックスで走り、野生の勘を研ぎ澄ませて坂道を下っていると、ガードレールとガードレールの間にちょうど人が入れそうな隙間をみつけた。
ここかもしれないと急停止し、恐る恐る目の前にある林を覗き込んだ。
足元は丈の短い草が得ていて、何となく整備されていそうな気がしないでもない。

「あ、誰か踏んづけてる」

横の方へ目をやると、踏まれてそんなに時間が経っていなさそうな茂みを見つけた。
曇り空も手伝って、ガードレールの向こうはかなり薄暗い。
一人で入るのは嫌だけど、ここまで来たら仕方がない。
勇気を振り絞ってその茂みに足を踏み入れた。

「ほんまに手のかかる高校生やな。嫌なことあるからって逃げんなや。顔がよかったらなんでも許されると思うなよ?男前やからって調子に乗りすぎやわ」

草木の折れ曲がる場所を目印に足を進め、途中で顔に貼り付いてくるクモの巣にも動じず悪態をつく。