ゆっくり、話そうか。

余計な付属が引っ掛かる。
クラスに一人、絶対の確率でこういうタイプが存在する。
吉と出る場合もああれば凶となる場合も。
やよいの場合残念ながら凶で、大きなお世話にもほどがある事態だった。
なんでよりによってそんな事を言ってしまうのか。
やよいが既に日下部にフラれていることを知らないとはいえ、これはあまりに無神経すぎる。
もしかしたら知っていても考え直せよとかいってしまいかねない。
万智の彼氏でなければ嫌な奴として一生仲良くすることはなかっただろう。

「尚ちゃんもういい加減にして」

「なぁんでぇ？やよいっちに彼氏出来たら万智も嬉しいだろ？」

「だから、そういう簡単な話じゃないでしょ？」

何を言っても無駄なのだろう。
きっとキューピッドになりたい欲が出てしまっているのだ。
こうなったらもう、万智が倒れでもしない限り収まらないだろう。
二人がもめてる間にさらっといなくなって、尚太が忘れた頃に戻れば問題ないだろうと、やよいがゆっくり後ずさりを始めた。
調理を幾分かサボることになるが、この状況はなかなか打破しがたい。
ごめん万智と心で謝ってフェイドアウトしようとしたとき、心底鬱陶しいと言わんばかりのため息が届いた。

「付き合わないよ」

苛立ちの含んだ声は、最初にフラれたときより鋭く突き刺さった。
呼吸が、停まる。
現実なのに、まるで夢の中で言われたように頭の中が遠い。
こっちに背を向けていても、どんな表情をしているかは想像するのも簡単すぎる。
いつも向ける呆れ顔なんか比べ物にならないほどの、嫌悪、だろうと。

「なんで？可愛いじゃん、やよいっち」

やめて、
ほんまに、
これ以上、
勘弁して。
いったいなんやの、この公開処刑…。
黙れ、尚太、頼むから。

ぶっ飛ばしてでも止めたい衝動を抑える。
恥の上塗りだけは避けたい。