またも、心の準備も整わぬまま目が合うことになり、どうしていいか即座に判断できないやよいはそのまま固まってしまった。
けれど目を逸らせない。
日下部が見ているものが自分なのかどうか…。
こんな時なのに、嫌な癖が顔を出す。
昨日の件から初めて見る日下部はどんな顔をしているのだろうか気にはなるが、生徒の数が多くて表情を読み取ることが出来ない。

「おーい、やよい?どした?先いっちゃうぞー」

日下部とやよいの間を割って入るように万智が前へ立ち、視線が外れた。
少しほっとした。
あのまま日下部を見つめていたら、それに気付いた生徒からどんな野次をとばされるか分からない。

咄嗟の対応力が欲しい。
来年の願い事はこれやな。

家主の許可も得ずに好きに騒ぐ心臓を押さえ、ざわつきを整えるように深呼吸した。
そのときにはもう日下部の姿はなく、生徒のほとんどがバスを降りていた。

駐車場から歩いて数分の場所にあるバンガロー風のキャンプ場はこういった学校関係の団体様にも対応していて、一つ一つの設備の余裕が凄まじい。
全員が到着完了すると、ちょっとした広場で集合し、到着式なるものが行われた。
お決まりの注意事項などの説明だ。
高校生で出来ない奴がいるのかと問い詰めたいくらいのお約束事項がキャンプ役員から読み上げられ、そのあと「楽しい思い出を作りましょう」で締め括られた。

必要なんか、これは。

こういった行事ごとで毎回思う。
注意事項はしおりにも書かれているし、守らなければならないことは小学生でも出来る当たり前の事。