「行きたいのに行きたくないとか、気持ち悪いわ」

キャンプには行きたいが日下部とは顔を合わせたくはない。
半分半分のせめぎ合いがずっと続いていて、頭の中はほとほと疲れきっていた。
しかも同じ班、行動も同じ。

こんなはずや無かったのに…。

「いやっ、あかんっ、あかんでっ!せっかくのキャンプや!あんな色男のせいで台無しにされてたまるか!なんや私!この前からうだうだ鬱陶しい!あんなんただ男前なだけやん!当たっただけやしな!ちゅうかっ、人の気も知らんと好き勝手にやってくれて!絶対楽しむて決めたからなぁぁぁっ!」

タイミングがずれると早速日下部と出くわすかもしれない通学路を、最近サボりがちであった前向きさに渇を入れて突き進んだ。

後ろで日下部が聞いていたとも知らずに。

「おはよーっ、やよいー」

「おはよー」

校門を潜ると、先に登校していた万智と尚太が出迎えてくれた。

「あれぇ?寝不足?クマ出来てない??」

やよいの顔を覗き込み、涙袋の辺りを優しくさする。
げっそり感が目元に出たのか、気持ちはなんとか奮い立たせても肌の質感まではどうにも出来なかったようだ。
万智にはまだ昨日の事を話しておらず、隣には尚太もいるため眠れていない理由を簡潔にで説明するのも難しいやよいは「楽しみすぎて」と誤魔化すしかなかった。

「お子ちゃまだなぁ」

「バスで寝てしまうかもしれん」

からかうようにおでこをツンとつつかれ、あははと笑う。
三人で集合場所の体育館まで移動し、出席番号順に並んで待機する。
今のところ日下部を目で追うことは自制できていて、それ以前に探そうとすることもしていない。
キャンプ場での班行動まで顔を合わさず、道中のバスで眠ることが出来たら少しは英気を養えるだろう。
早くも眠気が出てきた目を擦りつつ、出発前の長い朝礼をなんとか気合いで乗りきった。

バスが走り出して間もなく、いい具合の揺れに誘われたやよいはすぐに眠り込んでしまった。