去年の春、父の転勤で関西から越してきたやよいからすれば、たった一年くらいで標準語に口が馴染むわけもなく、馴染んだとしても気恥ずかしくもあり、標準語のイントネーションにすんなり移行できなくても無理はない。
住み慣れた土地、仲の良い友達とも離れ、文字通りの心機一転を高校一年目から余儀なくされたわけだから、標準語だのイントネーションだのに気を配っている余裕もなく。
ここの暮らしやリズムに合わせるのが精一杯だった。
幸い明るくハキハキ物を言う性格がうまく作用し、いつも一緒に騒げる友達は数人出来た。
関西弁であることをからかわれる事もなく、なんなら関西弁を真似したり会話のネタにさえなるくらいで方言いいなぁとまで言われていたのだ。
そんな中での“可笑しくなる”は結構なパンチ力だった。
しかも惚れた相手からのお断り理由のトップに来るのだから泣いてもおかしくない威力。

「あかん、なんか腹立ってきた。なんで?私にとっては産まれて初めて覚えた言語や。あいつかって、その気取った喋り方むっちゃウケるとか言われてフラれてみ?…いや、まぁ、ここ住んでたらそんな理由でフラれることもないか。ちゅうか、そんな理由でお断りもあかんしな、しかもあの顔やしな、フラれることはない…かもしれんな」

首を傾げつつぶつぶつ口にし、自分をフった男の顔を思い浮かべる。

せやな、男前やわ。

腹立ちが膨れているとは言え、いいものはいいを否定できずさらにイラッ。