「なぁ、もう帰った方がよくね?」

あれから部屋に戻り、机に向かってすぐ尚太がそう提案した。
足の裏をデオドラントシートで拭いながら、やよいと万智が頷き合う。

「そうだね、日下部くんも気ぃ使うかもしれないし」

「そのほうがえぇかもね」

帰ろうと決めるより早く両手は荷物をまとめていて、何だか逃げるように急いでいる。
別に悪いことをして黙って帰るわけでも無いのに、日下部が戻ってくる前にという焦りが強い。
玄関での鉢合わせは免れないけれど、声をかけられる状況かどうかは分からない。
顔を会わせて、ごめんごめんと手を上げてこそこそ帰る、なんてことも考えられる。
一応、帰りますとお礼のメモを残すことにした。

部屋を出て、玄関の様子を窺うと二人はまだ外にいるようだ。
こそこそ、足音には充分気を付けつつ階段を降りる。
こそ泥の気分だ。

「さらっと、さらっと涼しげに」

「そうだね、お邪魔しましたぁ、また学校でねぇっ、でいこうか」

やよいと万智が帰り際のさりげなさをおさらいし、尚太もそれに頷いている。
両手でガッツポーズを作り、靴を履いて、もう一度三人で頷き合ってからドアを開けた。
するとドアのちょうど真ん前に日下部がいて、うっすら開いたドア越しによたつくのが見えた。
ぶつかる重みを感じたやよいが、予想外の出来事に慌ててもう一度ドアを閉める。