それに、呼び鈴が鳴った時彼は本当に誰が来たのか分かっていない様子だった。
突然の訪問。
突然の訪問を許す間柄、と言うことはすぐに導き出せる答えだった。

「や、これは言わなきゃ不自然な情報だろ??」

剣呑な雰囲気に尚太が焦る。
今回は尚太が正しく、言わなければ不自然な情報だ。
三人で顔を見合わせ、前回の事もあるため覗き見はまずいなと思いつつも、衝動を抑えられずにベランダへ移動する。

日下部の部屋のある一角は庭にせり出す形で作られていて、ベランダに出ると玄関までの距離が近く、そこから障害物もなく様子を窺うことが出来る。
三人は靴下を脱いでベランダへ出ると、小さく体を丸めて下を見た。
足元が熱されていて熱い。
屋根付きとはいえ、無傷とはいかず、多少は熱を持っていた。
足を交互に入れ違えながら覗いた日下部は、尚太の言う通り前の彼女と何やら話をしていた。
話までは聞こえないが、真剣な内容らしく顔つきは険しい。
元カノと称するのが妥当か、すらりとした彼女はやよいがあの日に見た人物と一致している。

「なに話してんだろ」

「聞こえないね」

けれど三人の頭の中に思い浮かぶ可能性はひとつしかない。

「ヨリ、戻しに来たのかな」

その一択だった。

言いにくいことを尚太が代弁する。
言葉にすると、されてしまうと、現実感が増すのはどうしてだろう。
嫌な予感など抱いたところで、これは日下部の問題。
そんな権利など無いと分かっていても、縮まった距離が図々しい気持ちを抱かせる。
いかないでほしい。
今すぐここに戻ってきてほしい。
行き場の無い思いを抱え、やよいは万智の手をぎゅっと握った。