もし想像しているよりうんとキレていたら…。

「あ、それやったら諦めもつけやすいんちゃう?」

ガチギレして、二度と自分に近付くこともなくなれば、この想いへの決着も今よりうんとやり易くなるのでは?
そんな期待もちらほら見え隠れてしてきた。

「おはよー」

後ろから声をかけて来たのは万智。
挨拶を交わし、少し時間があるからと屋上へ行くことにした。
早朝の屋上はまだ、昨夜の空気を残していて独特の空気を孕んでいる。
柵に腕を乗せ、そこに顎を添えて下を通る生徒を見送る。

「私…、日下部くんはやよいのこと好きになりかけてると思ってた…」

前置きもなにもなく爆弾投下をされ、息が詰まったやよいは思わずムセた。

何を言い出すんこの子は!

「ないよっ、ないない!あり得へんっ。だって私二回もフラれてんのやで?タイプちゃうから付き合わんって」

万智も聞いていたはず、見ていたはずのあの出来事で、やよいは完全ノックアウトされている。
のに、どこにそんなふうに思える要素があると言うのだろうか。
すると万智は遠くの方を眺めて、なにかを思い出すように記憶を探る。

「んー、やよいが傷付くのは見たくないからこんな話しちゃいけないんだけど、でも何にも感じてないなんて思えないくらいに目が優しいんだよねぇ」

優しい。
そんな理由が出てくるとは思わなくて、自分の記憶の中の日下部も思い出してみた。
どれだけ様々な日下部を思い出しても、万智の言う柔らかい瞳は思い付かない。