衝撃は一夜明けても消えなかった。
万智にも、あれは無理矢理抱きつかれてただけで日下部の意思ではないと励ましてももらったが、気持ちは上向きにはならなかった。 
自分が知らないだけであんなことは初めてでもないだろう。
確かに、抱き合っていたのではなく抱き付かれていただけ。
けれど、そういうことだけではないのだ。

日下部が誰か他の女性に抱き付かれていたとかそういうことだけではなく、日下部がその距離にいることを許していたということ。
その事がどうにも消化しきれないのだ。

あの日下部があの距離に、たとえ抱き付かれたのだとしても、そうしていることを即座に拒絶していなかった。
やよいたちが見ていたと気付いて初めて、日下部は二人の間に距離をとった。
その事が引っ掛かっていた。
普通なら抱き付かれたら秒ももたずに払い除けていたはず。
仮にやよいが告白したときに抱き付いていたら、きっと瞬殺されていただろう。

日下部に少しは近づけたと思っていたのに、それがまだ遠かった。
気持ちは実らなくていいと覚悟をきめても、誰かが日下部のパーソナルスペースを自分より拡げていた事を思い知らされれば、嫌でも心はズタズタになる。
自分より近い女性など、吐いて捨てるほどいるだろうに。
思い上がっていたことが恥ずかしい。

自分が、こういうことがあった際はただ傷付くだけで、止めてほしいと訴える権利がないことに胸が締め付けられて、苦しかった。

「どんな顔して会ったらええん?」

校門を潜り、惰性にも似た弱々しさで校舎へ向かう。
友達ならさっきは大丈夫だったかと連絡をし、どんな気持ちでいるかを探ることもできたが、相手は日下部。
到底無理。