ゆっくり、話そうか。

諦めて美術室に行き、ノックもせずにドアを開ける。
五、六限目は授業がなかった様子で、部屋の中は冷房を切ってしばらくした、あの全身の毛穴を塞ぎにかかるねっとりした暑さに覆われている。
部屋の中を見渡し、覚えのあるフォルムを見つけた。

「よかった、あった」

やよいの座っていた席に忘れたときのままの状態で筆箱が残されていた。
一応自分の物かどうか確認し、背負っていたバックパックへ入れる。
ずっと走ってきたので疲れてしまった。
汗も滲んで、また同じ距離を走る馬力はない。

一人の校舎は怖いけれど、がくがく笑う膝には勝てなかった。
汗を冷ましながら階段を降り、気持ち程度に残った冷気で体を冷やす。
バックパックからタオルを取り、流れる汗を吹いた後、デオドラントシートを肌に滑らせた。
ひんやり、体感マイナス5度なる効果が肌に染みる。
なんとかかんとかベリーの香りもまた、スッキリした気持ちにさせてくれた。
そのまま専門校舎を後にし、校門へ続く通路を選択して進路を変える。
入学したての頃はよく迷ったが、今ではすっかり順路は頭に入っていた。

迷った末に出会ったあの出来事を思い出し、懐かしさに顔が緩む。
あの出来事がなければ日下部に胸を焦がすこともなかった。
あんなに酷く心を痛めることもなかっただろう。
今も尚、日下部に関してはいちいち揺さぶられる心は大きく大きく膨らみ続けている。
破裂するならするで、その骨も亡骸も残らず拾ってやるつもりでいる。