卒業式そのものは、正直そんなに重要ではない。

学長なんて滅多に顔を合わせないし、同級生だって数が多すぎて未だに話したことがない人もいっぱいいる。

卒業式そのものよりも、その後皆で話したり、謝恩会に行くことの方が全然大事。

だと思ってたんだけど…

学友会代表の挨拶が始まったあたりから周りで啜り泣く声が聞こえ始めた。

私も途中までは堪えていたんだけど、途中で決壊した。

代表の挨拶はとってもリアルで、聴いている私達も今までの学校生活が走馬灯のように流れてきて苦しくなった。

入学して早々に、恒星と別れたこと。

それでしばらく引きこもってしまったこと。

あの時はバイトも大変だったなぁ。

そして、詩乃が助けてくれたこと。

詩乃と付き合い始めてからは友達付き合いを全然しなくなって、由美も祥子も一度は離れていってしまって…

でも2人に思い切って打ち明けたら励ましてくれて、支えてくれて…

何か新しいことを始める度にうまくバランスを取れない私のことをずっと支えてくれた2人。

いや、もう1人。夏織も。

3人は時に優しく、時に厳しく、私が悪い時には叱ってくれたし、立ち止まる時には引っ張ってくれた。

ありがとね。


詩乃。

詩乃は、いつでもそんな私を、友達に支えられてやっと立っていられて私を、丸ごと受け入れてくれた。

私の1番大切な人なのに1番振り回してしまった人。

それでも一緒にいたいと思える人。

罪悪感よりも安心感をくれたから。

私も、頑張ればいいんだって。自分のペースでやればいいんだって。

そう、思わせてくれた人。

ありがとうね。


4年間の大学生活は、本当に良い思い出でいっぱい。

すごーく沢山の友達ができたわけじゃないけど、この大学生活で出会ってくれた、仲良くしてくれた友達は、これからもずっと大切な友達。

明日から皆に会えないのは本当に寂しい。

寂しくて涙が止まらない。

でも、私、今度こそ自分の力で歩いて行くから。

4年間でたった1つ。たった1つだけど、皆に力を借りて守れたサークル活動。

サークルがなかったら、私は何も変われなかったよ。

サークルがあったから、友達の尊さに気付けたし、1つの事をやり通す大変さを学んだの。

そして、4年間でたった1つだけ、勝ち取ることができた。

おかげで、4月からやりたい仕事ができるんだ。

皆、ありがとう。

言葉じゃ全然足りないよ。

由美、祥子、夏織、サークルの皆。




詩乃。

あぁ、私って本当に幸せ者だ。


気付けば由谷と祥子と手を取り合っていた。

周りでも沢山の人達が静かに泣いている。

あぁ、暖かいな。

こんなに暖かい学年だったんだな。













卒業式は無事に(?)済んで、皆講堂から出てきた。

友達同士で写真を撮ったり泣き合ったりしている。

もちろん私も。

「由美〜!祥子〜!」

卒業式の静けさから解放された私は、2人に抱きついて泣いた。

『さぎり、そんなに泣かないで。楽しかったでしょ??』

そういう祥子も泣いてる。

私は涙が止まらなくてなにも言えない。

ただただ頷くことしかできなかった。

『さぎり、私が言うのも変だけど、あんた、良く頑張ったよ。すごく成長したよ。ずっと…友達だよ』

由谷の言葉は、最後は掠れて聞き取れなかった。

あんなに強い由美も、今日だけは泣いてる。

「あり、がとう」

私は、嗚咽もおさまらないままなんとかお礼を言った。

『さぎりに出会わなかったら、知らないままだったことがいっぱいある。ありがとう。沢山学ばせてくれて。さぎりは、今が1番良いよ!胸張ってよ。私達の、誇りだよ。』

あぁ、もうやめて…そんな嬉しいこと言われたら、せっかくおさまってきた嗚咽が…

私はただ、由美の手を握り締めた。

きっと、思いは伝わると思ったから。





ようやく喋れるようになるころには、周りの皆は散り散りなった。

私達も、落ち着きを取り戻して部室に行ってみようと言うことになった。

『さぎり』

目の前に詩乃がいた。

「詩乃」

『卒業、おめでとう。』

「詩乃も、おめでとう。」

『謝恩会までは、友達と一緒だろ?今のうちに、写真だけ撮ろうぜ。』

もちろん!

「うん!ありがとう!」

詩乃とのツーショットに、由美、祥子と4人でも撮って詩乃はそのまま友達と歩いて行った。

なんとなくその背中を見送っていると、由美が私の隣に立った。

『本当、良い彼氏だね。』

「うん、ありがとう」

『さぎりと、すごくお似合いだね!」

これは祥子。


私達は、学生最後の日をこんな風に過ごして卒業した。