契約夫婦を解消したはずなのに、凄腕パイロットは私を捕らえて離さない

「はじめまして、凪咲ちゃんかな?」

「は、はい」

 目の前にいたのは四十代くらいの爽やかなスーツ姿を着た男性。見た目は優しそうで少しだけ緊張が解ける。

 だけど男性に上から下まで食い入るように見つめられ、その視線に寒気がはしった。

「うん、想像通り可愛いね。嬉しいよ、凪咲ちゃんとデートできるなんて」

 そう言うと男性は私の横に立ち、腰に手を当てた。

「え? あの……っ」

 そのまま距離を縮めると、男性はそっと私の耳に顔を寄せた。

「凪咲ちゃんのために一番いい部屋を取ってあるんだ。そこで食事をしてゆっくり過ごそうか」

 いい部屋って……。

 それを言われたらさすがに気づく。これは食事だけのデートじゃないってことを。だけどどうして? 規約にはしっかりと食事のみだって書いてあったのに。
 いや、今はそれよりも早くこの場を去ることだ。

「すみません、急用ができたので……」

 男性から離れて逃げようとしたけれど、さらに強い力で抱き寄せられた。

「逃がさないよ。……凪咲ちゃん、あのサイトを利用するの初めてでしょ? 建前上は食事のみってことになってるけど、本当はセックス込みの値段なんだよ」

「……っ」

 男性はそのまま強引に歩き出した。