契約夫婦を解消したはずなのに、凄腕パイロットは私を捕らえて離さない

 そもそも彼は私のことを覚えていない。だったら軽く挨拶をして通り過ぎればいいだけ。
 そう自分に言い聞かせて再び歩を進める。

 すると私に気づいた誠吾さんが顔を上げた。目が合った瞬間に小さく会釈して「お疲れ様です」と言いながら玄関を出ようとした時。

「離婚したら、元夫のことはすっかり忘れるのか?」

「えっ?」

 思わず足を止めて彼を見ると、スマホをポケットにしまい、ゆっくりと私のほうに近づいてきた。
 そして唖然と立ち尽くす私に誠吾さんは顔をしかめた。

「なんだよ、本当に俺のことを忘れちまったのか?」

「え、いや……えっ!? 待ってください、誠吾さんこそ私のことを忘れていると思っていたんですけど」

 突然声をかけられてパニックになりながらも言うと、誠吾さんは頬を緩める。

 久しぶりに見た誠吾さんの笑顔はやっぱり素敵で、胸がきゅんとなる。よりいっそう大人の男性となった彼の笑顔は破壊力抜群だ。

「なんだ、ちゃんと覚えていたんだな」

「当たり前じゃないですか! ……忘れるわけがありません」