契約夫婦を解消したはずなのに、凄腕パイロットは私を捕らえて離さない

 誠吾さんとあの日偶然出会っていなければ、私は見知らぬ男性に襲われていた。契約結婚を持ちかけられていなかったら、今の私はいない。

 いいじゃない、彼が私のことを覚えていなくたって。好きな仕事をして自分らしい人生を歩んでいくことが恩義を返すことになるはず。
 そう思うことでずっと胸につっかえていたものが取れた気がした。

 誠吾さんが忘れているなら私も他人として接しよう。そして密かに彼の幸せを願おう。それが私にできることだと思うから。

「よし、帰ろうかな」

 すっきりしたところで席を立ち、帰り支度を始める。

 明日は休みだし、なにかおいしいものを買っていこうかな。お酒も買っちゃおうか。

 帰り道にあるスーパーを思い浮かべながらロッカーを閉めて、控室を出た。

 多くの社員が帰宅した後で、廊下に人気はない。自分の足音が異様に響くのを感じながら歩を進めていくと玄関に人影が見えた。

 壁に寄りかかってスマホを操作している人物を目にして、思わず足が止まる。

 え、どうして誠吾さんが?

 一瞬パニックになるも、べつに私を待っているわけではないと落ち着かせる。