契約夫婦を解消したはずなのに、凄腕パイロットは私を捕らえて離さない

「あの、本当にさっきは助けていただきありがとうございました！　それに手当てまでしていただいて……。本当にありがとうございます」

　自分が悪いけど怖い思いをした分、彼の優しさに涙が出そう。
　安堵感に包まれる中、彼はポンと私の肩に手を置いた。

「いい社会勉強になったな」

「へ？」

　顔を上げれば彼は笑っているけど、明らかに苛ついているのがわかりたじろぐ。

「あれ、どう見ても出会い系で引っかけた男だよな？　なに？　自分から引っかけておいて急に怖気づいたわけ？　手っ取り早く金を稼ごうと思ったのかもしれないけど、世の中そんな甘くないからな？　あんな状況で放っておけなかったから助けたけど、本当だったら今頃あのホテルに連れ込まれていたんだ。……もっと自分を大切にしろ。親御さんが悲しむぞ」

　クシャッと髪を乱暴に撫でると彼は深いため息を吐き、コーヒーを喉に流し込んだ。

　彼の言う通りだ。簡単にお金を稼ぐ方法があるわけがないし、彼に出会えた私は運が良かっただけ。
　それにこんなことをしたって母が知ったら、絶対に悲しむはず。彼のように『もっと自分を大切にしなさい』って言って怒られるよ。それを今さら気づくなんてバカすぎる。

　自分が情けなくて涙が零れ落ちた。

「おい、泣くなよ」

「すみませんっ……！」

　これじゃ彼が私を泣かせたみたいに見られちゃうよね。現に通行人からの視線をひしひしと感じる。

　慌てて涙を拭うものの、なかなか止まってくれない。