契約夫婦を解消したはずなのに、凄腕パイロットは私を捕らえて離さない

「すみませっ……。それに助けていただいてありがとうございました」

 震える声でお礼を言った瞬間、彼は素早く私を抱き上げた。

「わっ!?」

 身体が急に宙に浮き、びっくりして彼の首にしがみつく。
 私をお姫様抱っこした彼は歩きだした。

「膝、血が出てる」

「え? あ」

 言われて自分の膝を見れば、彼の言う通り両膝から出血していた。

 数十メートル歩いた先にベンチがあり、彼は私をそこに下ろすと「ちょっと待ってて」と言って道路を挟んで反対側にあるコンビニに向かった。

 もしかして私の手当てをするために、コンビニに?

 予想は当たり、彼は急いで戻ってくると膝をついて消毒液で消毒し、さらには絆創膏まで貼ってくれた。

「ん、これでよし」

 満足げに言って彼は私の隣に腰を下ろした。そして一緒に買ってきた缶コーヒーを開けて飲むと、袋からミネラルウオーターを取り、私に差しだした。

「走って喉が渇いただろ?」

「すみません、ありがとうございます」

 おずおずと受け取ったものの、なかなか開けて飲むことができない。

 そもそも彼と私は初対面のはず。それなのにここまで良くしてくれるのはなぜ? いや、理由なんか詮索している場合じゃない。まずはしっかりとお礼を言わないと。
 ペットボトルをギュッと握りしめ、彼に向かって深々と頭を下げた。