「急用、か」

 凪咲から送られてきたメッセージを眺めては、がっかりとした気持ちになる。

 ニューヨークから戻ってくると、初めて凪咲から誘いのメッセージが届いていて、柄にもなく浮かれてしまった。

 しかしそれも束の間、仕事が終わったとメッセージを送ろうとしたら、まさかの断りの連絡が入っていて、どれだけ落胆したか。

 スマホをポケットにしまい、廊下を突き進んでいく。

 急用ってことは、なにかあったってことだよな? 大したことではないといいけど。

 彼女の言動で一喜一憂し、些細なことが気になって仕方がない。本当、自分でも驚くほど凪咲のことが好きでたまらないよ。

 彼女との出会いは、ただの偶然だったけれどきっと一生わすれることはできないだろう。今だって鮮明に思い出すことができる。

 駐車場へ向かい、買い物を済ませてから空港からほど近い自宅マンションに到着。地下駐車場に停めて最上階に着くと、ひとり暮らしのはずなのに玄関を開けたら部屋の明かりが灯っていた。

「あ、お帰り兄さん」

 玄関のドアを開け閉めする音に気づいたのか、リビングから顔を見せたのは弟の篤だった。

「来てたのか」

「うん。久しぶりに兄さんの手料理を食べたいなぁって思って」