契約夫婦を解消したはずなのに、凄腕パイロットは私を捕らえて離さない

 テキストに目を通しながらも、もし誠吾さんに会えた時にどうやって切り出すか考えていると、急に正面の席の椅子を引く音が聞こえた。

 相席するほど店内は混雑していないはずなのに。

 不思議に思いながら顔を上げた瞬間、心臓が止まりそうになる。

「やっぱり凪咲だよな?」

 私の顔を見て確信を得たのか、嬉しそうに話す相手とは違い、一瞬にしてつらい過去が蘇っていく。

「あまりに綺麗になっていたから、半信半疑だったんだ。だけど、どう見ても凪咲だと思ってさ。……久しぶりだな、元気だったか?」

 どうしてそんなことが言えるのだろうか。そもそもよく声をかけてきたものだ。まさか忘れたの? 自分が私と……ううん、母にした数々のひどい仕打ちを。

 過去の母のつらい姿を思い出すと、怒りが込み上げてくる。

 数年ぶりに再会した父は、白髪が増えていてやつれていた。だけど笑った顔は私が幼い頃に好きだった父の笑顔そのもので、それが余計に胸を苦しくさせる。

 複雑な思いに悩まされていると、父はテーブルの上に並んでいるテキストに目を向けた。