契約夫婦を解消したはずなのに、凄腕パイロットは私を捕らえて離さない

「凪咲ちゃん、あそこだよ」

 言われて顔を上げると、そびえ立つ大きなホテルが見えた。

 あそこに着いたら私、この人に抱かれるんだよね。改めてそう思うと再び恐怖に襲われる。
 本当にいいの? このまま流れに身を任せて。後悔しない? こんな方法でお金を稼いで母が喜ぶ?

 様々な思いが駆け巡り、自分を奮い立たせる。

 諦めたらだめだ、逃げるんだ。

 上機嫌で隣を歩く男性の手は相変わらず私の腰に触れているけど、それほど力を入れていない。逃げるなら今だ。
 ホテルが近づく中、一瞬の隙をついて私は一目散に駆けだした。

「え? あっ! 凪咲ちゃん!」

 すぐに男性が追いかけてくる。

 ヒールで走ることに慣れていない私は、思うように速く走ることができない。振り返ると男性が間近に迫っていた。

 このままじゃ追いつかれる。追いつかれたらもう逃げられない。

 必死に走って逃げるのに夢中で前をよく見ていなかった私は、誰かの背中にぶつかってしまった。

「キャッ!?」

 反動で地面に倒れ込んでしまい、膝に痛みがはしる。

「悪い、大丈夫か?」

 私からぶつかったというのに、相手は心配そうに手を差し伸べてくれた。

「凪咲ちゃん!」

 だけどすぐに男性に追いかけられていることに気づき、急いで立ち上がった。

「すみませんでした!」

 謝って駆けだそうとした時、手を掴まれた。