春に笑って、君宿り。

「……はあ、手伝うよ」


私の視線の先で起きていた大惨事を目にした雪杜くんは、すべてを理解したようにそう呟いた。

理解が早くて助かるし、かっこいいし、しかも手伝ってくれるの?

私が勝手にやったことなんだから、手伝ってもらうのはなんだか悪い気が……いやでも、もっと一緒にいられるっていう意味ならこれはチャンスなのでは?


「ほうき、持ってくる」

「う、うん……ありがとう」


そっと離れて、教室に入っていく雪杜くん。
う、寂しい。
雪杜くんのぬくもりが遠ざかっただけでこんなに寂しい。

……こんなに欲張りだっただろうか。


「先輩、めっちゃかわいいっすね!!」

「!?」

「雪杜のどこに惚れたんすか!? あいつ、色々やべー噂あるのに!!」


ゴミ箱の元に行こうとしたら、さっきまでぽかんと口を開けていた男子に囲まれる。
え、今度は私?

どこに惚れた、って言われても。


「え、と……」


考える。
今日まで見てきた全部の雪杜くんの声、表情、仕草。

どこに惚れたかって聞かれても。
その中のどれかを選ぶことができない。

ただぼんやりと「好き」って言葉が浮かぶだけ。
やさしく光る明かりみたいな、うーん、ろうそくの火みたいな。

そんな「好き」しか、浮かんでこないのだよ。