春に笑って、君宿り。

***

コーヒーカップに始まり、様々なアトラクションに付き合わされた。
今はちょっとした休憩でベンチに座っている。

人混みが大嫌いな俺が、よく知りもしない人たちとこんなところで何してるんだろう。
早く帰りたい。


「カノ」


トーガ先輩が、隣のベンチに座っているあの人の名前を呼び、近づいていった。


「はい、喉渇いたろ」

「わ、ありがとう信濃くん!!」


差し出されたドリンクを、屈託のない笑顔で受け取る。
はあ、よくも元彼にそんな笑顔向けられるよね。

というか、やっぱ誰にでも同じ笑顔、向けるんじゃん。


「おい、ナチュラルにカノに近づくなよ」


あの人とトーガ先輩の間に、割り込むように入っていくタマキ先輩。
いや、どの立場から言ってんの。
あーあれか。幼なじみの立場。


「いっちょ前に彼氏ヅラしてんじゃねーよ統河」

「してねーよ」

「……先輩達、子供じゃん」

「「あ?」」


ついうっかり、偶然奇跡的に口が滑りました。
だって困ってる顔してるからさ、あんたらの前にいるあの人が。

ちらっと見やれば、びっくりしたようにこっちを見て、そしてふふっと笑う。
……いや、別に助けたわけじゃないから。