春に笑って、君宿り。


さっきまでの勢いがどこかへ行ってしまったみたいに、言葉が出てこない。
おかしいな。

好きって伝えること意外にも話すこと決めてたはずなのに。

雪杜くんに飛びついた瞬間、飛びついたあと。
彼の体温に包まれていた一瞬の時間。
今触れた、雪杜くんの手の感触。

全部全部今更恥ずかしくなってきた。おかしい。

今までの恋は、こんなことなかった。
「恥ずかしい」って思うより先に、「嬉しい」って気持ちが勝っていたから。


今はどっちの気持ちも大きくて、それでも恥ずかしいが勝って、心臓の音がうるさくて。
耳に心臓ってありましたっけ?っていうくらい、ドッドッてうるさくて。

知らない。

私が今まで感じていた「好き」って気持ちと違う。
こんなの知らない。

でもなんでだろう。
嫌じゃない。


「あのさ」

「っはい……!!」


気付けば生徒玄関で靴を履き替えて、校門まで歩いてきていた。
ここまで無言だった。
というか話をする余裕が私になかった。

あんなに会いたかった人が目の前にいるのに、恥ずかしくて真っ直ぐ顔が見られないなんて。
もったいない。


「近くに公園があったはず。とりあえずそこに向かおう」

「……うん!!」


「放課後デートみたいだね?」って頭の中では思っても、口に出すことができない。

触れることよりも、話すことよりも。
こうして一緒にいることが今は一番嬉しく感じてしまっているから。