「タマキ先輩、俺お腹空いたんですけど」

「当たり前のように先輩に料理させようとするな」

「当たり前のように毎週俺の家に押しかけてくる人のセリフですか、それ」


奈冷の言葉にむうと口をとがらせる。
それは……そうだな。


「じゃあ答え教えてくれたら作っ「胸鎖乳突筋(きょうさにゅうとつきん)僧帽筋(そうぼうきん)


よっぽど腹が減っていたようだ。
今度から答えを教えてくれないときは、この手を使おう。

俺は解けなかった問題に細い付箋を貼り、同じく参考書を閉じる。

びらびらと貼られた付箋がむなしい。
俺はこんなにも分からないところがあるのか。


「いいなあ奈冷は頭良くて」

「ケンカ売ってます? タマキ先輩のほうが頭いいですよね? っていうか早く何か作ってくださいよ」


テーブルの上に並べられていたはずの医学書やノート、筆記用具はすでに片付けられていて。
手をグーにして正座している奈冷にじっと見つめられる。

……お前はエサ待ちのペットか。


「えー俺料理上手じゃないしぃ」

「……」


話が違うと言いたげな目で睨まれる。
それからふっと視線が落ちて、薄い唇がきゅっと結ばれた。

奈冷は気付いていないんだろうけど、俺はその奈冷の表情にめっぽう弱い。

めちゃくちゃ頭いいしぱっと見クールなイメージだけど、話してみると活発で、負けず嫌いで、今みたいに子供っぽく拗ねる。